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療養指導義務

医師法23条では、「医師は、診療をしたときは、本人又はその保護者に対し、療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。」と規定されています。
ですから、医師は、診療した患者に対して、療養の方法や健康を保つ上で必要となる事項について指導を行う義務を負っているのです。
では、どのような場合に、医師の療養指導義務違反が認められるのでしょうか。

福島簡判昭和52年2月18日「業務上過失致死事件」判決では、「全身麻酔剤ケタラールは副作用として嘔吐を伴い、それによる嘔吐物の逆流のため窒息をするなど患者の生命、身体に重大な危険を及ぼすおそれがあったから、医師である被告人としては右ケタラールの使用にあたっては、あらかじめ患者又はその付添人に対し、患者の飲食の有無を確認することは勿論、また、手術時までは絶食を保つよう具体的に指示、説明をなし、吐瀉物の誤嚥による窒息などの生命身体の危険の招来を未然に防止すべき業務上の注意義務がある」として医師の刑事責任を認めました。

福岡地判昭和61年3月28日「ネフローゼ症候群事件」判決では、外泊を希望した患者に対して、外泊することの危険性を十分に認識させた上で明確にこれを禁止しなかったとして、医師の過失を認定しました。

東京地判平成4年7月8日「先天性風疹症候群児出産事件」判決では、「妊婦が妊娠初期に風疹に罹患した場合にはかなりの高率で先天性異常児が出生する危険性があるものであってみれば、その妊婦又は夫にとっては、出生する子に異常が生じるかどうかは切実かつ深刻な関心事であることは当然であって、妊娠時と近接した時期に風疹に罹患したものとの疑いを持つ妊婦から風疹罹患の有無について診断を求められた産婦人科医としては、適切な方法を用いて能う限り妊婦の風疹罹患の有無及びその時期を究明して、その結果を妊婦らに報告するとともに、風疹罹患による先天性異常児の出生の危険性について説明する義務を負う」と判示され、先天性風疹症候群児出産に関する説明については、他にも説明義務を認めた裁判例が複数あります。

また、最高裁平成7年5月30日「核黄疸脳性麻痺事件」判決では、退院させることが相当でなかったとは直ちにいい難いとしても、産婦人科の専門医としては、退院させることによって自らは上告人修代の黄疸を観察することができなくなるのであるから、退院させるに当たって、これを看護する母親に対し、黄疸が増強することがあり得ること、及び黄疸が増強して哺乳力の減退などの症状が現れたときは重篤な疾患に至る危険があることを説明し、黄疸症状を含む全身状態の観察に注意を払い、黄疸の増強や哺乳力の減退などの症状が現れたときは速やかに医師の診察を受けるよう指導すべき注意義務を負っていたと判断されました。

医師としては、診療を行った以上、患者に重大な結果が生じる可能性があるにもかかわらず、経過観察ができない場合には、患者自身や患者の家族にその可能性について十分説明し、注意を促す必要があるといえるのです。

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